よく「役作り」といった言葉を聞きます。与えられた役を演じる時に、台本に描かれた役の人物はどういう人なのかを考えて、その人物像になりきるための準備、とでも言い換えられるのでしょうか。
たとえば台本から読み解ける役の性格は「せっかちで、神経質、感情の起伏が激しい」としたとき、果たしてそれをどうそれを演じるのでしょうか?
特に役の性格が自分と離れている場合、役に自分を近づけなければなりません。身近にいるそうした性格の方をまねてみる。ということをするかもしれませんし、自分の中のそうした部分を極端に前に出して演じてみるかもしれません。

今日のスキルアップクラスの練習は、例えばそんな時にも役立つと思ってみていました。行なった練習は、動き(仕草)のしかたや質(早さ、強さ、ゆったりさ、瞬発性、持続性)に変化を付けることで同じ行為であってもずいぶん印象を変えるということを自覚する練習です。役作りに応用するなら、例えば「せっかちで、神経質、感情の起伏が激しい」人はどのような傾向の動きをするだろうか、に注目し台詞の言い回しや内面的なことはまずは考えず、からだと動きからアプローチしてみるという方法です。
この方法はなかなか実用的じゃないかと思います。今日の練習でも受講生の振り返りの中で「自分のクセに気づいた」といった話しがでましたが、人物像を構築するのはとても多様な要素を含んでいます。それを漠然とした印象だけで処理しようとしてもなかなからちがあきません。頭の中でイメージしていることを演じているつもりでも、客観的には全く変わっていない(演者その人に見えてしまう)ということはよくあります。経験が浅い方は、台詞に頼る傾向があるので「台詞の言い方だけ変わって、見え方は全く変わらない」という深みにはまりがちですが、この方法はそうした深みから脱出しやすくしてくれます。自分のクセは、知らず知らずに出ているので、なかなか自分では気づかないものです。動きに注目してみることで、どう変化させればいいかが、具体的で明確になるのです。今回のように動きやその質に明らかな変化を加えることで、簡単に変化することができますし、自分のクセや自分の動きの傾向にも気づくことができます。動きの変化は演じ手の内面にも変化を与えます。どうしてもその場面の感情になれないときでも、動きを変えることでそんな気持ちが喚起されるのです。
もちろんこの方法が万能ではありませんが、内省的になりやすい性格の役者さんにはこうしたアプローチはお勧めではないでしょうか。