2012年9月20日木曜日

実感に基づいた演技論


「演技力向上を目的」と謳っているこのスキルアップクラスの講師は、開講当初から全員俳優が務めています。当たり前と言えば当たり前ですが、役者のための訓練ですので、役者としての経験や訓練が指導に活かされるわけです。
 特に俳優として舞台に立って感じている実感や、練習の中でつかんだ俳優としての感覚は説得力あることばとして、受講者に伝わります。

さて、本日からはじまった田中遊さんの講座は、まさに田中さんが日頃から感じ、実践していることや自分の体験の中から、あらゆる演劇に役立つと田中さんが実感していることで構成されていました。
 めずらしく座学からスタートした今日の講座でしたが、「役者としての意識のもちかた」についての話しから、演技と呼吸との関係のことまで、まずは田中さんが重要と感じている内容を頭でわかってもらうことから始まったのでした。後半は実際にからだを動かしながら、呼吸を使ってのエクササイズを行いました。
 最後に次週までの宿題として、1)自分について箇条書きにしてくる(自分という者はどういう人か)、2)1日分の日記を書いて持て来る(他人に読まれる可能性あり)
が出されました。役者である以上「人間に興味を持つ意識」が大切という、冒頭での話しに関係がありそうです。次回はこれを使ってワークショップを行うとのことです。

2012年9月17日月曜日

動きからのアプローチ

よく「役作り」といった言葉を聞きます。与えられた役を演じる時に、台本に描かれた役の人物はどういう人なのかを考えて、その人物像になりきるための準備、とでも言い換えられるのでしょうか。
 たとえば台本から読み解ける役の性格は「せっかちで、神経質、感情の起伏が激しい」としたとき、果たしてそれをどうそれを演じるのでしょうか?
 特に役の性格が自分と離れている場合、役に自分を近づけなければなりません。身近にいるそうした性格の方をまねてみる。ということをするかもしれませんし、自分の中のそうした部分を極端に前に出して演じてみるかもしれません。
 今日のスキルアップクラスの練習は、例えばそんな時にも役立つと思ってみていました。行なった練習は、動き(仕草)のしかたや質(早さ、強さ、ゆったりさ、瞬発性、持続性)に変化を付けることで同じ行為であってもずいぶん印象を変えるということを自覚する練習です。役作りに応用するなら、例えば「せっかちで、神経質、感情の起伏が激しい」人はどのような傾向の動きをするだろうか、に注目し台詞の言い回しや内面的なことはまずは考えず、からだと動きからアプローチしてみるという方法です。
 この方法はなかなか実用的じゃないかと思います。今日の練習でも受講生の振り返りの中で「自分のクセに気づいた」といった話しがでましたが、人物像を構築するのはとても多様な要素を含んでいます。それを漠然とした印象だけで処理しようとしてもなかなからちがあきません。頭の中でイメージしていることを演じているつもりでも、客観的には全く変わっていない(演者その人に見えてしまう)ということはよくあります。経験が浅い方は、台詞に頼る傾向があるので「台詞の言い方だけ変わって、見え方は全く変わらない」という深みにはまりがちですが、この方法はそうした深みから脱出しやすくしてくれます。自分のクセは、知らず知らずに出ているので、なかなか自分では気づかないものです。動きに注目してみることで、どう変化させればいいかが、具体的で明確になるのです。今回のように動きやその質に明らかな変化を加えることで、簡単に変化することができますし、自分のクセや自分の動きの傾向にも気づくことができます。動きの変化は演じ手の内面にも変化を与えます。どうしてもその場面の感情になれないときでも、動きを変えることでそんな気持ちが喚起されるのです。
 もちろんこの方法が万能ではありませんが、内省的になりやすい性格の役者さんにはこうしたアプローチはお勧めではないでしょうか。