2012年8月30日木曜日

見る力

演じる人(グループ)と見る人(グループ)に別れて、演じる人(グループ)が行なったことに対して、見るグループが意見を述べるという練習をたびたび見かけます。
 この練習で大切なのは、実は見るグループの「見る力」だと思っています。「見る力」がなければ演技は上達しないのではないかと思えるぐらいです。しかし、こうした場での「見るグループ」からの意見は、とても優しいのが通例です。自分の演技に対しても意見をいわれるだけあって、できるだけいい所を見つけて言ってあげる(そのほうが互いに気持ちいい)となるからでしょうか。
 しかし、実際の舞台ではお客さんは割と厳しいものです。おそらく多くの観客は意識して厳しいのではなく、退屈な演技には「すなおに」退屈な態度になっている、ということだと思います。ですので練習中に「見る」立場になった時には、実はこの「知り合いでもなんでもないお客さん」の視点で、あまり歩み寄ってあげず自然に見ることが大事なのだと思います。
 とはいえ「概ね退屈で、いい瞬間や、参考になる瞬間はなかった」などと振り返りの場で言ったら、しらけたり、憎まれたり、傷つけたりする可能性があるので、そこは気を使うところだとは思いますが、自分の本当の気持ちに嘘をついて、「本心」よりワークショップの雰囲気作りに引っ張られてしまうのは問題です。できるだけ高い水準で批評的に演技を見る目を養い、自分の素直な心にひっかかってこない演技には心の中ではっきりと「退屈」と判断し、なぜ退屈なのかを考えることが大切なのだと思うのです。演技者が自分を肯定してもらいために、練習の場ですら(身内の目線にハードルを下げて)できるだけ肯定的に見る癖をつけていると、自分が何を目指しているのかがわからなくなってきます。厳しい目で人を見つめるとき、その視線が自分に返ってきてつらくなるかもしれませんが、その気持ちがお客さんの気持ちだとすれば、上手くなるためには、それを冷静に受け入れることが必要ではないでしょうか。
 また、大切にすべきは「自分の感性」であって、他人や先生が「いい」というものをすぐに受け入れないことだとも思います。自分が「いい」と思うものを、他人が「いい」と言わなかったとき(その逆でも)、それをなぜかと考えることで、何かが前に進む気がします。そして、そうしたことこそ、ワークショップで行なわれるべきことだと思うのです。

2012年8月16日木曜日

ワークショップをもっと楽しむために。

演技トレーニングを目的としたワークショップで、よく「自覚の促し」というような訓練を目にします。意識していなかったことや自分ができないこと、もしくは自分のクセや特徴などについて、自覚したり、他人からどのように見えているかを知る訓練です。実は、この練習は必要なことではあるけれど、これをしたからといって演技がうまくなるとはいえません。自覚できても、それがすぐに「できる」に結びつくとは限らないからです。受講する側からすれば、うまくなるためにワークショップを受けに来たのに、すぐに結果がでないのではがっかりです。もちろん指導者にはそれを行なう理由はあるのですが、受講者が求めるものと違っているとしたら、互いに不幸です。
 さて、今回のワークショップでも講座の冒頭に参加者に受講理由を聞いたのですが、多くの方が課題を持って受講しに来ていました。この講座のように演技技術向上を目的とするワーショップの講師(インストラクター)は、医者のようにそれぞれの課題に対し、的確な処方を行い、課題の改善を行うべきですし、本来その能力を備えてこそプロの指導者といえます。しかし、私達が完全にその技術を備えているかというと、残念ながらまだ発展段階です。表現者である俳優と、コーチであるインストラクターは職能が違います。いい表現者がいいコーチであるかは別問題なので、私達は「インストラクター」としてどうあるべきかを今検証している最中です。
 それはさておき、講師の側に立てば、毎回のワークショップを行なうにあたって、もちろんのことですが予め内容を考えます。当然ですが、その際には「自分が教えたいこと」「教えられること」を基にプランは作成されます。教えられることが幅広く、受講生の問題に対していくつもの方法を提案できる場合はいいのですが、教えられることが限られる場合や、「教えたいこと」にこだわりがある場合には、受講者が得たいことと「教えられる」内容がくい違うことはたびたびおこります。 
 いいワークショップの大前提は、講師が「教えたい」ことを上から「指導」し、受講者が疑いもなくそれを「ありがたがって」受けるということではなく、受講する人も、講師も互いに提案し、創造的であることだと私は考えています。初心者であっても役者をやろうとする人は、自分の課題や、自分がイメージするいい演技を突き詰めて考えるのは、当然のことです。たとえば「自覚する作業」は所属する劇団の稽古場や、日常生活でも十分可能です。演技訓練について書かれた本の一冊でも読んで、ちょっと向上心を高めることで、ずいぶん意識は磨かれると思います。しかし、自分一人ではできないことも多く存在します。そこでこうしたワークショップが大事になるのです。
 講師(インストラクター)も、考えて来たプランを忠実にこなすだけではなく、受講者の要望や状態に柔軟に応え、課題に対して的確な処方箋(気づき)を提供する努力を行なってこそ、受講する側の満足を高めるはずです。ちなみに、講師には自分の「演技観」を「指導したい」というタイプと、自分の演技観はさておき、指導者というよりファシリテーターとして中立な立場でワークショップそのものの質を高めることで、参加者に気づきを与えたいというタイプがいます。どちらも大切だと思いますが、「答え」を期待している受講者に取っては後者は不満かもしれません。自分の感性を大切にしたい人には、ある価値観を押し付けられるようで、前者のタイプは合わないかもしれません。そもそも「いい演技の尺度」は、見方によって違うのですから、答えは与えられるのではなく、役者自らで探し獲得してゆくものではないでしょうか。指導方法に対して逃げを打っているのでは決して無いのですが、「役者」として自分の価値を上げる努力をするのはやはり役者さん自身だと思うのです。受講者が受け身の姿勢から脱し、積極的に意見を交わし、与えられたエクササイズをできるだけ創造的に行なうことで、ワークショップの質はぐっと上がります。そしてそれこそが、うまくなる近道だと思うのです。そうした姿勢でワークショップに取り組めば、「どの先生が正しいの?」みたいな混乱も避けられると思いますし、もっともっと楽しくなるに違いありません。そして、受講する人にとっては本当に役に立った、もしくは課題がより明確になったという実感を得られることでしょう。
スキルアップクラスはこうした状態をまずは目指していきたいと考えています。

2012年8月2日木曜日

スキルアップクラス再始動!!

2005年に始まった、劇研アクターズラボの原点、スキルアップクラスが約1年間の休止を経て今日から再始動しました。休止に至った主な理由は受講者の減少だったのですが、今日の再開に至るまでには私達の中で様々な葛藤がありました。
 さて、このスキルアップクラスは京都界隈で活動する劇団の多くが、練習を我流に頼る状況のなかで(専門的な教育を受けた人数がわずかな中で)、私達の活動が問題提起となり、役者を志す皆さんの向上を促す刺激になることを目標に、2005年から休止に至る約6年間活動を行ってきました。しかし、年を追う毎に参加者数は減少し、長く続けられる者はほとんどいなくなりました。訓練が成果を上げるには相応の時間を要します。週2時間程度練習を行ったからといって、3ヶ月で格段に技術が向上するということことは、まずありません。ある程度時間をかけた訓練を行ってこそ、成果は現れるはずですが、その時間を耐えることなく多くの人が講座を去っていってしまいました。
 私達はどうすれば彼らの動機を維持できたのか、どうすれば技術向上の成果を実感できるようにさせられたのか、そもそも私達の力では無理ではなかったのか?講座の仕組みや授業そのものの内容までを講座を休止して再検討することにしたのです。
 そして、私達の力が及ばない点、未熟な点も確認しながら、やはりもう一度挑戦していこうと決めました。もっと多くの時間を訓練に割けるようにしたい。もっと安く受講できるようにしたい、どうすればプロになれるのか、どうなると「売れる」のか、その道筋をわかりやすく示したい。・・・・・講座そのものの内容だけでなく、なぜ講座を受ける必要があるのかまでを具現するような、理想的な講座への願いは尽きませんが、現実はとても厳しい。
 今回の再スタートは現実を見つめた上で、かすかな望みにかけようという、こうみえても苦渋の決断の上に成り立っています。無駄な挑戦になるかもしれませんが、地道な訓練を丁寧に繰り返すことで、演技に対する意識を高める努力を、志を同じくする講師の先生方ともう一度行いたいと思います。
 演技を学ぶことは、せいぜい小劇場で活躍できる程度のこと、と過去の実績は物語っています。それは、とても残念なことです。私達はその程度のことを目指しているのではありません。演技が、舞台で活躍できるだけでなく、教育や福祉などの他分野でも社会に役立つさまざまな可能性を秘めていること、教養を養い人間性を高めることにも役立つことなど、さまざまな「力」があることを実感できるようにしたいのです。
 できることが限られていることは、良くわかっています。この条件下で最大の成果を上げるにはどうしたらいいのか。講師や企画側だけではなく、今回は受講生も一緒になってこの問題と取り組んでいきたいと考えています。今までは講師と受講生の関係は「教える側」と「教えられる側」であったように思います。もちろんそうした側面は無くなる訳ではありませんが、今期は「自分達が一生懸命行なっていることの未来を一緒に考える場」でありたいと思っています。問題を共有しながら、それぞれが「自分だけ」で何かを解決しようとするのではなく、それぞれが解決に向けて意識を合わせて努力することで、何かが前に進むと期待しています。
 まずは、スタートが切れて良かった。そして、これからは同志が増えるよう、頑張っていきたいと思います。