2012年8月16日木曜日

ワークショップをもっと楽しむために。

演技トレーニングを目的としたワークショップで、よく「自覚の促し」というような訓練を目にします。意識していなかったことや自分ができないこと、もしくは自分のクセや特徴などについて、自覚したり、他人からどのように見えているかを知る訓練です。実は、この練習は必要なことではあるけれど、これをしたからといって演技がうまくなるとはいえません。自覚できても、それがすぐに「できる」に結びつくとは限らないからです。受講する側からすれば、うまくなるためにワークショップを受けに来たのに、すぐに結果がでないのではがっかりです。もちろん指導者にはそれを行なう理由はあるのですが、受講者が求めるものと違っているとしたら、互いに不幸です。
 さて、今回のワークショップでも講座の冒頭に参加者に受講理由を聞いたのですが、多くの方が課題を持って受講しに来ていました。この講座のように演技技術向上を目的とするワーショップの講師(インストラクター)は、医者のようにそれぞれの課題に対し、的確な処方を行い、課題の改善を行うべきですし、本来その能力を備えてこそプロの指導者といえます。しかし、私達が完全にその技術を備えているかというと、残念ながらまだ発展段階です。表現者である俳優と、コーチであるインストラクターは職能が違います。いい表現者がいいコーチであるかは別問題なので、私達は「インストラクター」としてどうあるべきかを今検証している最中です。
 それはさておき、講師の側に立てば、毎回のワークショップを行なうにあたって、もちろんのことですが予め内容を考えます。当然ですが、その際には「自分が教えたいこと」「教えられること」を基にプランは作成されます。教えられることが幅広く、受講生の問題に対していくつもの方法を提案できる場合はいいのですが、教えられることが限られる場合や、「教えたいこと」にこだわりがある場合には、受講者が得たいことと「教えられる」内容がくい違うことはたびたびおこります。 
 いいワークショップの大前提は、講師が「教えたい」ことを上から「指導」し、受講者が疑いもなくそれを「ありがたがって」受けるということではなく、受講する人も、講師も互いに提案し、創造的であることだと私は考えています。初心者であっても役者をやろうとする人は、自分の課題や、自分がイメージするいい演技を突き詰めて考えるのは、当然のことです。たとえば「自覚する作業」は所属する劇団の稽古場や、日常生活でも十分可能です。演技訓練について書かれた本の一冊でも読んで、ちょっと向上心を高めることで、ずいぶん意識は磨かれると思います。しかし、自分一人ではできないことも多く存在します。そこでこうしたワークショップが大事になるのです。
 講師(インストラクター)も、考えて来たプランを忠実にこなすだけではなく、受講者の要望や状態に柔軟に応え、課題に対して的確な処方箋(気づき)を提供する努力を行なってこそ、受講する側の満足を高めるはずです。ちなみに、講師には自分の「演技観」を「指導したい」というタイプと、自分の演技観はさておき、指導者というよりファシリテーターとして中立な立場でワークショップそのものの質を高めることで、参加者に気づきを与えたいというタイプがいます。どちらも大切だと思いますが、「答え」を期待している受講者に取っては後者は不満かもしれません。自分の感性を大切にしたい人には、ある価値観を押し付けられるようで、前者のタイプは合わないかもしれません。そもそも「いい演技の尺度」は、見方によって違うのですから、答えは与えられるのではなく、役者自らで探し獲得してゆくものではないでしょうか。指導方法に対して逃げを打っているのでは決して無いのですが、「役者」として自分の価値を上げる努力をするのはやはり役者さん自身だと思うのです。受講者が受け身の姿勢から脱し、積極的に意見を交わし、与えられたエクササイズをできるだけ創造的に行なうことで、ワークショップの質はぐっと上がります。そしてそれこそが、うまくなる近道だと思うのです。そうした姿勢でワークショップに取り組めば、「どの先生が正しいの?」みたいな混乱も避けられると思いますし、もっともっと楽しくなるに違いありません。そして、受講する人にとっては本当に役に立った、もしくは課題がより明確になったという実感を得られることでしょう。
スキルアップクラスはこうした状態をまずは目指していきたいと考えています。