かつて演劇は「聞くもの」であったが、このところは「見るもの」になったようです。こうなった原因は、観客の側の変化だと私は見ているのですが、つまり、テレビなどの映像の演技や表現にすっかり見る側が慣れてしまっているからじゃないかと思っているということなのですが、それはともかく。演劇のセリフもずいぶん日常会話に近くなって来た印象です。そのせいか、演劇と言えば発声練習にはじまり、「セリフ術」を練習する、という感覚はずいぶん古くさいものとなってしまったようです。
とはいえ、翻訳劇や古典劇を上演したり、400席以上の広い空間で上演する場合には、拡声装置を使ったとしても、やはり「声」と「セリフ術」は観客に伝える要素として、重要になる可能性はいまでも高いと思います。もっと積極的ないい方をすると、生身の人間が表現することが「演劇の魅力」だとするならば、声を始めとする身体のあらゆる部分を創造的に活用することが、演劇をより豊かにするはずです。独特のセリフ術だってあっていいはずです。
さて、今日のスキルアップクラスは平岡さんの講座でした。平岡さんはよくシェークスピアなどのテキストを用いてレッスンを行います。もちろんドラマを演じるための関係性に焦点をあててレッスンすることもありますが、本日は主に長いセリフをいかに語るかに焦点を当てたレッスンになりました。平岡さん曰く「色々な解釈や演出はあると思いますが、あるひとつのセリフ術だと思って練習してみて下さい」とのこと。
長いセリフを、よく伝えるのにはやはり技術が必要です。今日のレッスンはより効果的に伝えるための一つの方法を学ぶといったところでしょうか。(正解を学ぶということではもちろんありません)若い劇団さんの舞台を見させて頂くと、声やセリフ(発話)について意識的である所は少数の印象です。こうしたことに意識的であることこそが、(映像と差別化できるという意味で)「演劇的」であるぐらいの積極的な考えで、独創的な手法の開発も含めて、こだわってみるのもいいのではないでしょうか。